アメリカ政治の複雑怪奇

国際

アメリカ政治の懐の深さを久しぶりに見た気がします。

米下院が20日、ウクライナ支援のための法案を可決しました。内向き志向を強める共和党の反対で半年に及び暗礁に乗り上げていましたが、結果は賛成311票、反対112票と意外にも圧倒的な大差がつきました。

下院議長の「変身」

報道では、ジョンソン下院議長(共和党)が主導的な役割を果たしたようです。でも、同氏はトランプ前大統領に近く、ウクライナ支援より不法移民対策を重視する立場を取ってきたはず。法案に賛成したマッコール下院外交委員長(共和党)は「彼は変身を遂げた。自分自身より国を優先する行動をとった」と評しています。いったい何があったのでしょう。

新聞やテレビなどの情報から、最近の動きを時系列で追ってみました。

  • 3月28日、ウクライナのゼレンスキー大統領がジョンソン氏と電話。支援法案の採択を要請する。
  • 4月11日、岸田首相が米議会で演説。「日本はこれからもウクライナと共にある」
  • 12日、ジョンソン氏、トランプ氏と会談。トランプ氏は会見で「ジョンソン氏はよくやっている」「我々は資金供与でなく融資の形にするよう考えている」と述べる。
  • 13日、イランがドローンや弾道ミサイル300発以上でイスラエルを攻撃
  • 14日、ジョンソン氏、FOXニュースの番組で「(トランプ氏は)私を100%支持している」。
  • 17日、ジョンソン氏「人がなんと言おうと正しいことを行う。あとは歴史が判断する」
  • 18日、CIA(米中央情報局)のバーンズ長官「(米国が軍事支援をしなければ)ウクライナが年末までに敗北する危険性が非常に高い」
  • 同日、トランプ氏がSNSで「ウクライナの存続と強さは米国にとっても重要だ」と投稿。
  • 20日、支援法案が下院で可決。総額約610憶ドル(約9.4兆円)の支援のうち、財政支援95億ドル分は融資(貸し付け)とした。

ホワイトハウスから機密情報

ジョンソン氏がいつ採決を決断したかは不明です。この間、ホワイトハウスはウクライナの厳しい戦況に関する機密情報を伝えています。さらにマッコール氏やターナー下院情報特別委員長ら共和党の同僚たちも「アフガニスタンと同じように、ウクライナが屈すれば米国が弱体化する」と助言を繰り返しました。米政界のいわば「国際派」が超党派で説得を試みたことが分かります。

一方で、トランプ氏に近い保守強硬派は下院議長の解任動議を提出してジョンソン氏をけん制します。

トランプ氏がゴーサイン

こうした中、ジョンソン氏は12日、トランプ氏をフロリダ州の邸宅「マール・ア・ラーゴ」に訪ねて会談。ここで事実上のゴーサインが出たと思われます。

ちなみに、採決では共和党は101人が賛成、112人が反対票を投じました。14日にイランによるイスラエルへの攻撃があり、共和党議員の間にも米国の抑止力が低下すれば中露の覇権主義が強まるとの危機感が広がりました。それでも、トランプ氏の支持がなければ結果はどうなっていたか分かりません。

トランプ氏としては、大統領選で穏健派や無党派層の支持を得るにはウクライナ支援を認めるのが得策との計算があったのでしょう。裏を返せば、当選後は手のひら返しがあるかもしれません。なんとも複雑怪奇です。

ところで、20日の下院本会議では民主、共和両党の議員が「米国の指導力は必要不可欠」とした岸田首相の議会演説を引用して法案への支持を訴えたそうです。融資の返済が滞るようなことがあれば、請求書は日本に回ってくる?

 

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