学歴疑惑、メディアは責任果たせ

政治

小池百合子・東京都知事をめぐる学歴報道が波紋を広げています。知事の元側近で弁護士の小島敏郎氏が『文藝春秋』5月号(4月10日発売)に「学歴詐称工作に加担してしまった」とする告発手記を掲載したのです。真偽は不明ですが、7月には都知事選が控えています。疑惑解明へメディアの出番です。

小池氏の学歴疑惑は2020年7月の知事選の前にも浮上しました。ノンフィクション作家の石井妙子さんが著書『女帝 小池百合子』で、関係者の証言や資料をもとに「国立カイロ大学卒業」という学歴はウソだと指摘。都議会で追及される事態になり、小池氏は窮地に陥ります。

選挙に出れば刑事告発

そんな中、同年6月9日、「(小池氏の)卒業を証明する」とのカイロ大学長名の声明文が、駐日エジプト大使館のフェイスブックで公表されます。追及は一気に沈静化し、小池氏は知事選で圧勝します。この時のことを、小島氏は手記でこう綴っています。

この声明文の効果は絶大でした。新聞やテレビなどの大手メディアが、一斉に「カイロ大学が声明を発表した」などと報じたからです。燃え上っていた学歴詐称疑惑は、一気に沈静化しました。
私はこの時「大手メディアは、大使館のフェイスブックに載っただけで信じるんだ。大学ホームページを調べたり、アラビア語の原文はどう書いてあるとか、学長への取材などもしないのだろうか。それで済むんだ」と正直、不思議に思いました。

この声明文の発案と作成に、小島氏と、やはり知事のブレーンで元ジャーナリストのA氏がかかわっていたというから事は重大です。

小島氏は当時、小池氏が特別顧問を務める「都民ファーストの会」事務総長でした。声明が出る直前の6月6日、小池氏から学歴問題への対応を相談され、「大学に声明文を出してもらえばいい」と提案します。後に、A氏から「小池さんに頼まれ、私が文案を書いた」と打ち明けられ、自分が学歴詐称に加担したことを知ります。

小池氏は今月12日の定例会見で「声明は、大学当局が意思をもって出されたもの」と反論。一方の小島氏は17日、日本外国特派員協会(東京)で会見し、「学歴詐称は公職選挙法の虚偽事項公表罪にあたる。小池氏が今後選挙に立候補して『カイロ大卒』と書けば刑事告発する」と徹底的に争う構えです。

動かなかった新聞

文藝春秋5月号ではもう一人、北原百代さんという女性が手記を寄せています。カイロ留学中の小池氏と2年間同居し、事情を最もよく知る人物です。手記によると、小池氏は進級試験に落ち、「実際は卒業していない」と言うのです。そして、小池氏が環境大臣になった頃から「私はあなた(小池氏)にとって、消えてほしい人間なのではないか」と恐怖を感じるようになったと言います。

そこで私は、メディアに伝えようと思い立ち、まず朝日新聞に配達証明郵便で、手紙を送りました。「小池百合子さんは学歴を詐称している。自分は同居しており、全てを知っているので話を聞いてくれないか」と言う内容でした。自分の氏名と、当時は日本に滞在していたので、その住所も書きました。ところが、まったく連絡がなかった。メディアにもあなたの力が及んでいるのではないかと、私はさらに恐怖の念に囚われました。

その後、石井妙子さんと出会い、すべてを話します。北原さんは『女帝』に匿名で登場しますが、昨年、文庫版化に際して実名に切り替えました。「沈黙する大手メディアをなんとか動かしたい」という一心からだったと言います。

性加害事件の轍踏むな

2人の手記を読みながら、故・ジャニー喜多川氏による性加害事件を思いました。1999年に『週刊文春』が追及キャンペーンを始め、2004年には東京高裁で「重要な部分は真実」と認定されました。しかし、大新聞やテレビは独自の調査報道をすることもなく、その後も被害は拡大し続けます。2023年3月に英BBC放送が喜多川氏の疑惑を追うドキュメンタリーを放送してから、ようやく動き出すという醜態を見せたのです。

文藝春秋の発売後、小池氏と小島氏がそれぞれ会見をしました。各紙とも両氏の主張を短くまとめただけでちょっと心配です。もし性加害事件と同じ轍を踏めば、この国のメディアは今度こそ信頼を失います。

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