岸田首相の米議会演説

政治

日本の政治家の演説で、良くも悪くもこれほど率直な物言いは聞いたことがありません。岸田首相が米議会の上下両院合同会議で行った演説です。「米国は独りではありません。日本は米国と共にあります」「日本は控えめな同盟国から、強く、コミットした同盟国へと自らを変革してきました」。内向き志向が広がる米国と、それを繋ぎとめるのに躍起な日本と。日米関係の転換点を強く印象付ける演説でした。

英文の掲載は是非もの

各紙の中で、この演説報道を最も手厚く扱ったのは読売新聞でした。12日付朝刊の1面トップに据え、英語と日本語の全文を見開きで掲載しました。
You are not alone. We are with you.
We have transformed ourselves from a reticent allay‥‥

首相は英語で演説し、訴えかける相手は米国の議員や国民です。首相がどこまで踏み込んだかチェックするためにも英文の掲載は好判断でした。日本経済新聞も翌13日付で全文を掲載し、重要箇所には英文も添えています。

「もしトラ」見据え

読売の記事では、演説の背景解説も光りました。それによると、首相は訪米の成否は議会演説の実現にかかっていると見て、ふたりのキーマンへの働きかけを指示したそうです。トランプ前大統領の側近で駐日大使を務めたウィリアム・ハガティ上院議員と、対中強硬派のマイケル・マッコール下院外交委員長(いずれも共和党)です。両氏が、演説に招待する権限を持つマイク・ジョンソン下院議長(共和党)にそれぞれ提出した書簡が「決定打」(日本政府高官)になったといいます。

演説実現に共和党の協力を得たことで、首相はトランプ氏の大統領返り咲きをにらんだ布石も打っていたことになります。同時にウクライナ支援を訴えてバイデン大統領を喜ばせるあたり、なかなかしたたかです。こんな気付きを与えてくれる記事を読むと、得をした気分になります。

「際限ない協力」懸念も

日経新聞はフットワーク良く12日付朝刊トップで「転換期の日米」という連載記事をスタートさせました。1回目は「安保分かち合う」。首相演説を中心に、2015年に安部元首相が米議会で安保法制を約束して以来の日本の安保・外交政策の大転換を振り返っています。ちなみに2回目以降は経済や先端技術でした。

同紙によると、首相はレーガン元大領領の演説を書いたことがあるベテランのスピーチライターを起用、英語の録音を何度も聞き返して練習したといいます。

その影響もあるのでしょうか、「(日本は)共にデッキに立ち、任務に従事し、なすべきことをする、その準備はできています」と、まるで「スタートレック」のような表現もあります。そんな上滑り気味な首相に、日経は社説で「米国に際限なく協力するかのような印象を与えた面もある」とクギを刺しています。

世論調査、過半数が評価

一方、朝日と毎日は地味な扱いでした。朝日の12日付の1面トップは政治改革特別委員会設置の記事で、首相演説は左肩、毎日に至っては2面でした。間違いなく日米関係の新たな基軸になる演説です。賛否はともかく、しっかり打ち返すのがメディアの責任ではないでしょうか。

テレビ朝日が13、14日に実施した世論調査によると、岸田内閣の支持率は26.3%で前回より5.4%アップ。首相の外交・安保姿勢を「評価する」は54%でした。首相の「覚悟」が、まずは数字の押し上げに貢献したことは間違いありません。

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